|
こうした知識資産は、
・知識創造の源泉
・継続的成長の源泉
・企業価値の源泉
である。
形式知まで含めて、知識はきわめて人間依存のもので、それは情報とは異なる。では、知識は外部に伝達されたり、記録できないかというと、知識の文脈、状況を補うことではじめて可能になる。ではこの文脈だとか状況だとかを与えるのは何かというと、わたしたちはそれを通常「場」を通じて行なっている。場、あるいは状況的・文脈的・脈絡的な場というのは知識の共有や伝達、さらには創造まで含め、大変重要な役割を果たす。
「場」が、顧客との接点、提携企業との接点、組織内に創発していることが、21世紀における企業の決定的組織的能力となる。また「場」はIT上の意味情報をダイナミックにする。「場」はIT活用の際、組織的情報・知識資産と人的側面を融合させるプラットフォームとなる。「場のアルゴリズム」を理解することが知識経営のリーダー、環境構築者には不可欠。
知識創造プロセスを駆動させるには、場の文脈・脈絡を把握(解釈)し、知識ワーカーに提言・提案し、場を設け、生まれた知をケアしていくような、「創造パラダイム」のリーダーシップが必要である。それは、分析型でなく、評価・価値志向型(appreciation)のナレッジプロデューサである。

基本的考え方:知識資産部と知識創造部からなるモデル(上図)をもとに組織調査によってデータ収集し、分析することによって、知識資産の運用と知識創造プロセスを推進することができる。
暗黙知と形式知からなるプロセス(SECI)と形態(知識資産)を具体的指標によって測定し、その達成度を把握する。一方で資産を把握し、プロセス部との相関を分析する。

組織的知力とは、知識創造と知識資産活用のプロセスを駆動させる潜在的組織力であり、これによって知識が継続的に創造活用される。この知力は企業の文化・風土、リーダーシップなどに表象される。

ハイパーテキスト型組織とは、ナレッジセンター(知識ベース)、プロジェクトセンター(プロジェクト組織)、ビジネスセンター(ビジネスシステム組織)の3機能からなる、ヒエラルキーのない多元的組織デザイン。
これは「場」主導のプロセスと、ダイナミズムを生み出す関係性としての組織デザインであり、組織的機動力あるいは俊敏性をもたらすものとなる。
知識製造業とは… 知識資産を最大限に活用して、さらにあらたな知識を生み出し、さらなる知識資産を増殖していく製造業。(紺野登1998『知識資産の経営』)

知識産業と呼ばれる情報サービス、ソフト、コンテンツ・ビジネス、プロフェッショナルなサービス業などでは、当然知識が価値の源泉として認識されている。彼らの経営の資産とは無形の知識や情報であるからにほかならない。製造業でも、モノそのものよりもアイデアやデザイン、ソフトやサービス、コンサルティングやソリューションが無ければ競争できなくなっている。工場や設備などの有形資産より無形資産が価値の源泉であるという事実を示す例には事欠かなくなってきた。知識資産の経営という視点から見ると、従来は工場が価値を生んでいたのに対し、ナレッジワーカーの組織、顧客との知識共有と共創、知財の流通する市場から価値が生まれるようになっている。これは従来の企業の会計原則が事業の実情に合わなくなってきていることも意味する。

昨今の企業を見ると、知識資産を活発に創造、活用している企業が成長しているといえる。企業が経営に知識を活かすといっても、それにはいくつかのレベルがある。
まずナレッジマネジメントそのものに代表されるように、組織的な知識資産の共有、活用、創造のプロセスによりナレッジワーカーの生産性、革新性を高める試みは、テクノロジストやナレッジワーカーが主体のビジネスにおいては必然的に求められるものである。組織が持っているノウハウや個人の知識を共有、結集して価値を生み出す場を設ける、知のプロセスのマネジメントである。(第一のレベル)
また、製品やサービス自体も変化している。いわゆるインテリジェント製品や製品にまつわるソリューション、カスタム化のようにハードやサービスに知識が掛け算されることで、高収益で差別化された製品・サービスを提供することが不可欠となった。あるいは製品が知識提供のプラットフォームになることが求められるようになった。たとえばインターネット・アプライアンスやPDA、パーソナルロボットなどは「知識化」した製品やサービスといえる。(第二のレベル)
さらにこうした活動や変化は、市場での評価あるいはブランドをつうじて価値を再生産する、といった循環を生んでいる。(第三のレベル)企業が総体として持つ知識資産が市場での価値を評価され、ハードを持たない企業が高い時価総額を生み出す。こういう知識経済のメカニズムが働くようになってきた。それが企業の成長モデルとして組み込まれるというのも重要な知の経営の側面である。

こうした文脈の中で、これまで日本の産業の中枢を担ってきた製造業にも大きな変化が起きている。松下電器産業の生産部門の切り離しやソニーのソレクトロンへの工場売却など、かつての工場中心主義への決別とも思われる出来事が相次いでいる。われわれは、ハードウェア依存でなく、ハードウェアをプラットフォームととらえ、その上に様々なソフト、サービスを融合していく「生産サービスの時代」(製造、サービスの垣根の消滅)に入ったと考えられる。
たとえばパソコンのビジネスは、顧客からの直接注文(BTO)によるデル・モデルを経て、さらにASPやその他ネットワークサービスも含め、ますますシステムやサービス重視のモデルに移行しつつある。こうした構造的変化はパソコンだけでなく住宅産業、自動車、出版ビジネスなどあらゆる業種にわたる。共通しているのは、もはやモノやサービスを単体で提供していたのでは利益も成長も見込めないということである。そこでは、顧客のためのソリューションやコンサルティング、サービス、アップグレード、メンテナンス、最終的には製品廃棄まで、継続的な顧客との関係を築くことが前提となる。つまり顧客の知、パートナーの知、組織内個々人の知の共有活用が不可欠となる。
このような兆候が顕在化しているが、21世紀の製造業にとっては「知識製造業」(Knowledge Manufacturers) と呼ぶべき企業・業態のコンセプトがカギとなる。知識製造業とは、知識資産を最大限に活用し、あらたな知識を生み出し、知識資産を増殖していく製造業だといえる。そこではハードなモノの価値でなく、提供される知識の価値が問われる。モノはその媒介となる。ハードの品質や機能が劣ってよいということではない。知識製造業の製品の特徴はどれだけ製品が知識化されているかで決まる。

しかし、知識製造業は、ハード軽視ではない。ハードに関わる、知識の潜在的価値に焦点を置いた、あらたなビジネスモデルの構築を意味している。最近あたらしいモノづくりへの提言、モノづくり復権の掛け声が高まっているが、それは従来の19世紀型の製造業に戻ってしまうようなことであってはならない。知識製造業の「モノづくり」はその言葉だけではとらえきれない。それは顧客の願望、求める解決策のための知識(資産)を、製品をつうじて継続的にデザインし、提供することである。最近「スマイル・モデル」といった言い方で、製品による利益よりもその前工程の部品や、製品販売後のソフトやサービスでの利益を重視し、付加価値の谷にあたる製品の組立生産を外在化するロジックが喧伝されている。確かに、眼前の収益だけ見るなら効率的であるが、それには前提が伴う。まず、組立工程での蓄積がどの程度次なる製品革新につながるか。また、薄利とはいえ一旦市場に出た製品がどの程度顧客とのインタラクション(つまり知識共有)のための基盤となるか、といった潜在的知識価値についての判断である。組立現場での知の蓄積が薄い業種もある。その場合には生産設備の外在化は単純に効率化に結びつくであろう。また、販売後の製品が顧客との関係において価値を生まないのであれば、やはり外部化も可であろう。しかし、その逆は長期的な競争力の低下につながる。
インターネットはすべてを日用品化する強大な力だと言われる。グローバル、リアルタイムに情報が伝播する(模倣される)インターネットの時代には、昨日までの業界、地域、顧客に対する優位性や差別性が一瞬にして失われる。一方、逆に模倣されにくいのは、企業組織の内部、現場において共有蓄積された知識である。その多くはモノづくりのプロセスに埋め込まれている。
(N.Konno 2001年1月17日)

・知識製造業とは何か
・工場独立宣言
|